「殺しのオリンピックがあれば俺は金メダル間違いなしだ」恐怖のバラバラ殺人・埼玉愛犬家連続殺人事件

関根元・風間博子夫妻

今でこそ平和ボケ続行中な平成25年の日本。街のショッピングモールなんかにあるペットショップの前では純真無垢だかただの世間知らずの馬鹿だか分からんカップルが無邪気に子犬を見つめながら「カワイ~(はぁと)」だなんて浮かれ付いている時代。平凡な一般ピープル達にはこの恐怖のペットショップによる連続殺人事件の存在など心にもないだろう。

1995年初頭に逮捕された関根元・風間博子夫妻。ペットショップ「アフリカケンネル」の経営者だった二人が続けた常軌を逸した行為の数々。

日本の戦後犯罪史の中でもとりわけ残虐性が突出し多くの犠牲者を出した上、逮捕直前までマスコミにその姿を露出させ、当時のお茶の間に衝撃を与えたその事件の全容はその後の阪神大震災と地下鉄サリン事件に消し飛ばされた「埼玉愛犬家連続殺人事件」。

そのあまりに強烈な事件の存在に反してその知名度がそれほどでもないのは、完全犯罪にこだわる主犯・関根元の「ボディを透明にする」という言い回しにもある、徹底した死体解体術があまりにエグ過ぎて報道出来なかったからであるとも言う。またほぼ同時期に大阪でも愛犬家連続殺人事件があり、そちらと混同されがちな事もあった。

自分の気に食わなかった取引相手を次々毒殺するなど一見豪快過ぎるやり口の裏目には絶対に殺人の証拠を出してはならないという異常な程の神経質さがあり、現在も立件されず闇に葬られた被害者の存在もあるのだ。

この事件では最低でも4人が殺されているが、遺体が見つからず警察の捜査が難航する中、一連の殺人事件の共犯者だったアフリカケンネルの元役員・山崎永幸の供述により遺留品などが発見、完全犯罪の計画が綻んだ。関根元・風間博子の二名はともに死刑判決を受け、2009年に死刑確定している。

熊谷市 アフリカケンネル

そんな恐怖のペットショップ「アフリカケンネル」の建物は、事件から20年近くが経った現在でもなんと残っている。事件当時は大里郡江南町と言ったが現在は熊谷市。万吉(まげち)地区の見通しの良い田園地帯に囲まれた閑静な場所にある。熊谷駅から立正大学行きのバスに乗れば近くを通り掛かるので、離れた場所からもこの建物が目に付くはずだ。

熊谷市 アフリカケンネル

廃墟と化したログハウス風の「アフリカケンネル」の建物は一種の心霊スポットのような状態で、面白半分に侵入行為をやらかす廃墟マニアや事件マニアの姿が後を絶たない。事件の全容が解明するか関根・風間両名の死刑が執行されるかで目処が立たない限りは解体する訳にもいかないのだろうか。

熊谷市 アフリカケンネル

アフリカケンネルの創業者でもあった関根元は1942年、埼玉県秩父市の生まれで、業界にシベリアン・ハスキーブームを巻き起こした第一人者として有名な存在でもあった。その一方では地元・秩父市で経営していたペットショップではあくどい商売を続けていてしまいには暴力団に目をつけられて遁走、ほとぼりが冷めた頃に熊谷に戻り再び商売を始めるようになったという流れだ。

アフリカケンネルは1982年に開業、当初は熊谷市の八木橋百貨店近くの商店街に店を構えていたが後に万吉地区に犬舎を構え、1995年に関根・風間両名が逮捕されるまで営業していた。

妻となった風間博子は1957年、熊谷市生まれ、アフリカケンネルで知り合った関係で、関根元の片腕となるやブリーダーとしての才能も発揮しだす。なお風間博子は前夫との間に2人の子をもうけており、関根元は再婚相手になる。1993年に書類上では離婚届けを出しているが、これは税務対策のための偽装離婚だった。関根が殺した被害者B、Cの解体作業を一緒に手伝っている。

共犯者である山崎永幸はドッグショーを通じて関根と知り合い、その縁でアフリカケンネルの経営に誘われるようになり役員になるが、実際は関根の運転手や雑用係を任されていただけあった。逮捕後は懲役3年の実刑を食らうが、1998年に満期出所しており、その後事件の告白本「共犯者」を出版している。(後の文庫本ではペンネーム「志麻永幸」名義)

共犯者 (新潮クライムファイル)

立件されている3件、4人の被害者のうち、直接の犬販売を巡るトラブルで殺害したのは最初の1人だけで、あとは私利私欲、金目当ての犯行だったという。あくどい商売で銭儲けには長けていた関根だが、同時に金遣いも荒く、アフリカケンネルは常に綱渡りの経営状態だったらしい。

関根の殺しの手口は全て猛毒の「硝酸ストリキニーネ」を詰めたカプセルを栄養剤と偽ったり、または飲み物に混ぜて人に飲ませた上での毒殺だった。以下、立件されている3件、4人殺害の事件概要。

■被害者A(行田市在住・産業廃棄物処理会社役員、39歳、1993年4月)

最初の被害者Aは、関根からローデシアン・リッジバックのオスメスのつがいを1100万で購入したが、高齢で繁殖犬に適さず市場価値も数十万しかない事を知人に聞かされ、関根に騙されたとして契約のキャンセルと代金の返還を求めたのだが、アフリカケンネルの経営難で金が工面できなかったという関根はAを殺害する事を決意、実行に移した。

被害者B、C(旧江南町在住、稲川会系暴力団員、B51歳、C21歳、1993年7月

被害者BとCは関根と懇意であった稲川会系暴力団の幹部とその付き人で、Bはアフリカケンネルの顧客トラブルの仲裁役を買うなど用心棒役になっていた。関根がAを殺害した事を嗅ぎつけそれを元に強請りを入れようとするのだが、全財産を取られる事になると危惧した関根はBの殺害を決意する。Cはたまたま現場に居合わせただけで「口封じ」のために殺された。

被害者D(行田市在住、主婦、54歳、1993年8月

被害者Dはその次男がアフリカケンネルに勤務していた事から知り合った主婦で、関根が株主話を持ちかけ金を搾取しようと試みるも、嘘がバレてしまって、過去に販売した犬の代金の返還を求められる恐れがある事、そして関根と不倫関係にあった事から交際が煩わしかったために殺害を決意。殺害後の遺体は関根が死姦したと後の山崎の告白本の記述にある。

硝酸ストリキニーネ(単にストリキニーネとも、マラリア原虫に薬効があるキニーネとは違う)は有毒植物マチンから採取できる物質で、東南アジア方面では殺鼠剤や犬の駆除用、吹き矢の矢毒に使われたりする事もある。致死量を服用すると身体が弓なりに曲がり踵と後頭部がくっつく程の海老反り状態を伴う激しい痙攣とともに呼吸困難となり、数分で死に至るという症状が現れる。

「殺しのオリンピックをやったら俺が金メダルだ」と豪語し、殺人行為すらも己の自己満足でやってしまうという関根元、毒殺した被害者の遺体を処理する為に、山崎永幸が当時所有していた群馬県片品村の「ポッポハウス」と呼んでいた貨車を改造した自宅にまで運び、浴室で遺体を解体していた。

関根が言う「ボディを透明にする」の言い回しを作業内容で具体的に説明すると、遺体を肉、皮、骨、内臓に綺麗に分けた上で、骨と衣服、所持品のみドラム缶で丁寧に焼き、他の部位は数センチ四方に切り刻んでポッポハウス近くの山林や川に遺棄していた。常人にはとても出来る行為ではないが関根は死体の解体作業も手慣れた感じで「経験を積むのが一番」と豪語していた。

「死体がなければただの行方不明だ。証拠があるなら出してみろ。俺に勝てる奴はどこにもいない」

自らの目的のためなら他人に平気で嘘をつき、恐怖で支配し、骨の髄まで利用し尽くし、他人の命さえも平然と奪ってしまう。そんな関根元の異常性格は「サイコパス」と呼ばれているものだ。

一方の風間博子も戦後12人目の女性死刑囚として関根と共に東京拘置所に収監されているが、広島県福山市の鞆の津ミュージアムで開催されている「極限芸術 ~死刑囚の表現~」に『無実という希望』などの題で獄中から絵画作品を出展している。風間については冤罪説を唱え死刑回避を主張する団体の意見もある。

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この身の毛もよだつ衝撃的な猟奇犯罪を「オマージュ」した上でより悪趣味なエログロ路線に突っ走った映画作品にしちゃったのが園子温監督の『冷たい熱帯魚』(2010年)である。

犬のブリーダーが熱帯魚屋になっていたり埼玉が静岡に変わっていたり、共犯者も最後にトチ狂って自爆してしまったり脱線しまくりなのだが、アフリカケンネルの関根元もとい「アマゾンゴールドの村田幸雄」を演じたでんでんの怪演ぶり、ヘタレでしがない熱帯魚屋の店主だった「共犯者の社本信行」を演じた吹越満の最後のどんでん返し、そして何故かお色気路線に走る両者の妻を演じる黒沢あすかと神楽坂恵…

神楽坂恵写真集はだいろ

特に神楽坂恵はこの『冷たい熱帯魚』で女優としての頭角を現し始め、ちゃっかり園子温監督と結婚しちゃったりして今後も何かと見逃せない存在である。

それにしてもエロとグロに終始するあまりの脱線ぶりに、もはや事件に出てくる登場人物の頭数くらいしか合ってねえよといった感じだが、埼玉愛犬家連続殺人事件がもたらした狂気のエッセンスは十二分に引き出されていて素敵な映画でした。まだ見てなければ、どうぞ。超お勧め。

愛犬家連続殺人 (角川文庫)

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